やらなければ落ちこぼれるT大、落ちこぼれを作らない慶應義塾

約10年前、研究室の2年後輩にあたる理工学部教授の停年退職祝いの席で、彼はいみじくも、「慶應義塾は落ちこぼれを作らない。徹底的に面倒を見る。そこへいくと、税立大学であるT大は、一生懸命やる奴だけを拾う。やらなければ落ちこぼれ」と言った。

実際、税立大学の多くは、やる気のある青年が入学し、そのままやる気を全うすることを前提にしているように思う。入学してみてなんらかの原因でやる気が薄くなった場合にも、この原則は当てはまる。

指導しない教員にやる気を失ったとしてもだ。

慶應義塾では、研究室に入るとそれぞれの学生に応じて鍛え方は異なるものの、それぞれが精一杯能力を発揮するように指導する。

徹底的にしごくと伸びる学生、やり方まで教えれば何とかこなす学生、それぞれ大学で得た被指導体験は社会に出てから役立つ。唯我独尊で個を貫く人、部下に優しくチーム力を重視するビジネスパーソンなどと研究室で得たものが、それぞれ花開く。

不肖私は、第一志望のT大に進学できずに、ひどく落込みスランプになった。当時工学部1年生の一般教養で、物理学の先生は、「早慶戦に行ってこい、コンプレックスは吹っ飛ぶぞ」と声をかけてくださった。若い博士課程の学生だった先生。これが慶應義塾魂だと、今になって思う。

ちなみに、私は恩師久野洋教授から徹底的にしごかれたと、自分では思っている。

また、山口喬助教授(当時)から文献調査の仕方、エックス線解析の手法等の手ほどきを受けた。だから、今日まで社会でやってこれた。両先生が亡くなられたときに、それぞれ、心底泣いた。懐かしい数十年まえの話である。山口教授を送る会を「亡山口喬先生に感謝する会」とし、実行委員長を後輩から仰せつかったとき、本当に嬉しかった。

久野研究室1年後輩の安西塾長も弔辞を述べて下さったのが昨日のように思われる。

大和三田会 新田義孝(工学部昭和45年修士修了)